『秘密の花園-月の草-』



 月草の借れる命にある人をいかに知りてか後も逢はむと言ふ
 (月草之 借有命 在人乎 何知而鹿 後毛将相<云>)
  作者不詳 万葉集 巻十一-二七五六


 幸せな、夢を見た。
 まだ大人になりきれず中性的な面影を残した俊一がふっくらとした赤ん坊を腕に抱いて歩き、そばには彼の上着の裾を固く握って離さない幼い憲二と、お転婆に飛び跳ねてくるくると回る清乃。
 三人は異国の歌をとりどりに口ずさんでは笑っている。
「あれは、マザーグースよ」
 母、絹の、聞いたことのない嬉しそうな声。
 風が、木々を揺らして木漏れ日もちらちらと揺れる。
 白い光に包まれた中、夏の薔薇が咲き乱れる花壇の向こうからゆっくりこちらへやってくる女性が見えた。
 くちなしの花弁のようななめらかで白い肌、黒目がちで涼やかな瞳、薄く色づいた小さな口元。
 目が合った瞬間、ほほ笑んだ彼女の唇に命が灯る。
「あなた」


「・・・っ」
 指先が、空を掴んで目を開いた。
 サンルームでとりどりの書類を読みこんでいるうちに、いつの間に深く眠ってしまったようだ。
 今はまだ夜明けから少し経ったばかりで、朝露の匂いが清々しい。
 ふと身体に目をやると着せかけてあったのは、覚えのあるキルト毛布。
 ゆっくりとした足音に顔を上げると、コーヒーと朝食を載せた盆を運ぶ家政婦の姿が見えた。
「・・・これは、勝巳か?」
 軽く毛布を持ち上げると、住み込みで働いて久しい家政婦はほろりと表情を崩した。
「はい。それはもう、旦那様を心配なさって」
 もう七十に近いであろう彼女にとって、幼児の頃から面倒を見てきた勝巳が可愛くて仕方ないようだ。
「その露草も、勝巳さんが夜明け前に摘んで、生けてらしたようです」
 大きめのテーブルの中心には、色鮮やかな青い花をつけた露草が数本、ガラスの花器に生けられていた。
 当の勝巳は、庭を少し世話したあと朝食も取らずに東京へ戻ったという。おそらく、医師としての仕事が待っているのだろう。
 駅へ向かうタクシーに乗り込む寸前、ふと思い出したように勝巳は見送りの家政婦たちに生けた花のことを言付けたらしい。
「きっと、旦那様が露草を目にされることは、なかなかないだろうからと」
「なるほど・・・な」
 数年前に政界から身を引き、清乃の夫で婿養子の勇仁に全てを委ねた。
 しかし、古参の支援者とのやりとりなど、根回しにあたる一部の業務はいまだに自分と専属の秘書たちの仕事だ。
 心身ともに万全と言えない娘の清乃が政治家の妻としての務めを果たせない以上、出来るだけのことをやろうと思っているが、ここのところ年のせいか疲れやすくなった。
 気が付いたら自分ももう、八十も目前だ。
 いささか長く生き過ぎた。
 しかし自ら壊した世界をなんとか修復したくて、今もこうしてあがいている。
「あれは、花をよく知ってるものだな」
「・・・ええ。庭の隅々までご存知です」
 何もかも心得ている家政婦は多くを語らず僅かな笑みを返すのみで、手早くテーブルの上を整えて静かに辞した。

『夏になったとはいえ、この辺りは風通しが良すぎるから、どうかお気を付けください』

 勝巳。
 お前の、深く、柔らかな声が聞こえてくるようだ。
 私が殺そうとした、四番目の子供。
 なのに今、誰よりも近くにいるのは、なぜだろう。
 
 濃い青に染まった二枚の花びらと細く垂れさがる繊細な雄蕊が、窓からの風を感じてかふるりと揺れた。
 夜明け前に目覚め、昼の光の強さにしおれる花。
 こんなにも濃く標すのに、長くとどまれない青の色。
 数日で散る桜を、人は儚いと言っては命を語る時によく用いるが、もっと儚く、美しい花は他にいくらでもあるのだと、この庭のかたわらで過ごすようになって知った。
 いや。
 それを教えてくれたのは、ひとりの人。
 押しつけがましいことは一切なく。
 寄り添うように。
 そこに根差す草木のように。
 ただ、ただ、静かに存在する。

「勝巳」

 なぜ、と問うのは愚かなことだ。
 自ら知ろうとしなかった日々の重みが、今、ずしりと身体に覆いかぶさる。
 私はお前に、何ができるだろう。


 僅かに露を残した露草の、瑠璃のような青。
 音もなく通り抜ける、草の香り。
 眺めているうちに、ざわめいていた心が青の世界へと沈んでいく。
 夢をまた見ている、と、どこか冷静な意識が自らに語りかける。
 夢の中では、誰もが自由で。
 潜ったことなどないのに、深い海の底を目指してゆっくりと自分は降りて行った。
 海は恐ろしいほど青く美しく、酸素と思われる小さな白い泡がどこからか沸き上がる静寂の中、見上げた天には煌々とした光。
「月草、と言ったか・・・」
 露草の、古代につけられた名を思い出す。
「月草の・・」
 
 借れる命にある人を・・・。
 
 逢いたいと、思った。
 許されるなら、もう一度。
 夢の海で見つけた、真実。


「お待ちください、憲二さん!!」
 青の静寂が、突然途切れた。
 目を開くと太陽は高く上がり、濃紺の麻のジャケットを軽く着こなした青年が目の前に立っていた。
「起きてください。話があります」
「・・・随分と、久しいな」
 生まれた瞬間から踏みつけにし続けた、三番目の子。
「憲二。お前が私を訪ねてくるとはな」
 琥珀色の瞳が強い光を帯びる。
「俺の方も、こうしてあなたを訪ねることになるとは、驚きですよ」
 あなた、と、憲二は自分を呼ぶ。
 父と、呼ばれたのはいつが最後だったか。
 呼ばせたことすらなかったかもしれない。
 それなのに、不思議なことに自分の瞳の色を受け継いだのは、この憲二だった。
 幼いころはどんな色なのか、目元なのか解らなかった。
 無いものとして無視していたせいもある。
 しかし、彼もまた、こうして自分を見つめることはなかった。
 それが少しずつ変わってきたのは・・・。
「ああ、そうか」
「・・・なにがですか」
 ふっと笑うと、憲二の表情はますます険しくなった。
「いや。自分の中で、ようやく合点したことがあっただけだ。気にするな」
「気にするなとは・・・」
 話がそれつつあることに、気が付いたのだろう。
 ぐっと、悔し気に何かを飲み込んだ。
 もう十分大人で、社会的地位も信頼も得ているにもかかわらず、優美に整った目元に何故か幼さが残る。
 こんなに、表情豊かな子だったのだ。
 それが解っただけでも、ここまで生きた価値はあるだろう。
「それで。・・・何をしにここまで来たのだ、憲二?」
 目の端に、青の花びらが映る。
 お前は。
 お前たちは、どうしたい?
 また、静かな海へ戻る前に。
「話を聞こう。そこに座りなさい」
 残された時間は、そう、多くない。


「長くは、時間を取らせません。まずは、これを見てください」
 並べられた紅茶や軽食に口をつけることなく、憲二はいくつかの書類をテーブルに広げた。
「・・・これは?」
 いくつかのの国とその地方名、そしてけた外れの金額が多く書き込まれた表にざっと目を通してから問う。
「隠し財産です。俊一の」
 俊一。
 十年以上前に亡くなった長男の名前をここで聞くことになるとは思わず、さすがに驚く。
「・・・どういうことだ」
「所謂、タックスヘイブンと呼ばれる所を利用して、俊一は生前錬金していたんですよ。金庫番を一人置いてね。ご存じなかったのですか?」
 知らない。
 誰よりも可愛がった長男だったが、何一つ知らなかった。
 何を考え、何を愛しているかなんて、必要ないと思った。
 その頃、自分は俊一に跡を継がせるための強固な権力を作り上げることだけに心血を注いでいたのだから。輝かしい未来さえ手に入れれば、幸福なんて後でついてくると思っていた。
「しかし、これはあれが亡くなる前のものだな。なぜ今になってこれを?」
「そうです。俊一と峰岸が一緒に亡くなった時、金庫番が欲に目がくらんで横領して逃げたと俺が気付いたのが・・・。二年後だったかな。妙な日本人が羽目を外しているとラスベガスで話題になって、顔を見たら見覚えのあるヤツだった。金庫番の金子。昔、一度だけ俊一に紹介されたけど、すっかり忘れてました。なんせ当時は高校生だったもので」
「そんなことが・・・」
 俊一が事故死して、すぐに留学中の清乃を呼び戻して政治家に向いていると見込んだ勇仁と結婚させた。しかしそれがもとで清乃は心を病み、極限の状態で春彦が生まれた。思い出すこともできないほど、色々な事が真神家に降りかかり混乱しつづけた。
 そのさなか、憲二は大学を休学して突然アメリカへ留学した。母親や勝巳にすら告げることなく、ふらりと近所へ散歩に行くかのように、軽く手を振って。
「まさか、お前がラスベガスなんぞに行くとはな」
「話を聞いて思うところは、そこですか?」
「ああ。私はお前の留学時代のことは全く知らないからな。まあ、こうして職に就いているということは、そこそこ有意義だったのだろうなとは思っていたが」
「え?」
「なんだ?私がお前のことを考えていると、そんなに驚くことか?」
「そりゃ・・・」
 身を乗り出しかけて、憲二が我に返った。
「・・・ああ、もう、そうじゃなくて。とにかく、俺がようやく金子の部屋へ乗り込んだ時には、ちょうど死のうとしているところで・・・」
 金子は俊一の大学時代の同級生で、10年に及ぶ金庫番を極秘で務めるほどには有能で、誰にも仕事内容を漏らさずにいられるほど真面目で、善良だった。
 ただ、魔がさしたとしか言いようがない。
 誰にも知られない、極秘の宝物庫。
 なら、自分が持ち逃げした所で、誰にもわからないのではないか。
 横領を始めて一年くらいは周囲を警戒して、小さなリゾート地を渡り歩く程度だった。
 しかし一年経っても真神家に動きはなく、誰も俊一の隠し財産に気が付いていないと断定した途端、たがが外れた。
 いち個人では到底目にすることのない、莫大な金。
 当時が好景気だったせいもあり、それはまるで魔法のように増え続けることを辞めなかった。
 とにかく、使って使って、使いまくった。
 全身を上等なもので身を固め、生粋の金持ちのふりをした。
 不思議なことに、出まかせの嘘を誰もがそれを信じ、すり寄ってくる。
 金さえあればどの国も人々も必ず相好を崩し、しびれるほどの優越感を味わった。
 金で買えるものは世の中にはいくらでもあった。
 車も、家も、船も、女も、手に入らないものはない。
 だけど。
 賭けでどんなに負けたとしても、なぜか次の賭けで倍額になって入ってきてしまう。
 大きな買い物をしたとしても、それは手に入れた瞬間、屑同然に変わった。
 出口の見えない、金の洞窟。
 かき出してもかき出しても、金に囲まれていた。
 自分が飲んでいるものは水であって、水にあらず。
 抱き寄せた女は、人であって、人にあらず。
 金子は、気が狂う寸前だった。
「結果、奴の一年あまりの豪遊でも十分の一にも満たない使い込みにしかなりませんでした。俊一たちが職人のようにコツコツと世界各国に仕込んだ金は、どこの国が傾いても困ることのないよう運営されていたので」
「なるほど。そんな才能が俊一にあったとはな」
「俊一、というより峰岸ですね。金子と密に連絡を取っていたのはあいつだったようなので」
「そうか・・・」
 峰岸覚。
 先代の愛人の連れ子。
 そして、俊一を壊した男。
 その名を聞くと、殺しても、殺したりないくらいだと思っていた。
 ・・・しかし、今は。
「それで、お前が引き継いだのか」
「はい。隠し財産の、そもそもの目的も聞かされていたので。当時の俺は、ばかばかしいと思ったのですが」
「ばかばかしい?」
「ええ。だって、どこかの国の広大な土地を買って、母さんと、清乃と、俺、そして勝巳と暮らそうって、子供の夢のようなことを真剣な顔をして言ったんですよ、三十を過ぎた男が」
 はきすてるに言いながらも、唇に違う感情が漂っているように見えた。
「・・・真神と、私に関わりのない、どこかへ行こうとしていたのか、あれは」
「そうです」
「そうか・・・。そんなことを・・・」
 俊一が亡くなって以来、いや、それ以前から何度も見る、家族の夢。
 その中ではいつも、誰もが笑っていた。
 そうありたいと、彼らが願っていたと思うのは当たり前だろう。
「・・・もっと、驚くと思いました。随分と冷静なんですね」
「ああ・・・。驚いてはいるのだが。俊一は真神家の男であり、峰岸は長田家が育てあげた秘書だ。不思議はないと思ってな」
「・・・逆に、俺の方が驚かされっぱなしですよ、あなたの反応には」
「ああそうか。・・・それは、なかなか愉快だな」
「・・・なっ・・・っ」
「それで。今、これをわざわざ私に知らせるわけは?憲二」

 聞かずとも、憲二が現れた時点で解っていた。
 いや。
 昨日、この場所で、勝巳が無花果を差し出した時から、予感はあったのだ。
 近いうちに、真神の庭に、風が吹くと。
 それを見届けるのが、自分の役目なのだろう。
 罪滅ぼしには、決してならないが。

「これで、真神を買います。永久に」
 次に提示された書類の数値は、更に膨れ上がっていた。
「正確には真神本家の不動産全般。勇仁義兄さんの資産はもちろん全く興味ありません。政治家なんてまっぴらですから」
 いかにも憲二らしい言葉だと思った。
 憲二らしい?
 ふと思いなおして、笑いがこみ上げてきた。
「・・・何がおかしいのですか」
 憲二は、誰よりも子供らしい子供だったのだな、と、今更思う。
 そして、まだ子供のままの子供。
 純粋であるところ、頑固なところ、きかん気の強いところ。
 愛らしい子供が、ここにいる。
「・・・たしかにこれだけあれば、たとえ世界恐慌になったりお前たちが百歳近く生きたとしても、十分維持できるであろうな」
「なら、決定ですね」
「いや。そういうわけにはいかない」
「は?」
「昨日、勝巳が来て、ここをくれと言った。だから、やると約束した」
「ちょっと待ってください、それじゃあ勝巳は・・・」
「憲二」
「何ですか」
「その財産を隠し続けたのに今更なぜ私に知らせ、この庭を買うという」
「それは・・・」
 言葉を選びあぐねて、憲二は唇を開いては閉じた。
「言えないか?なら、その話はのめない。勝巳の願いを、私は叶えてやろうと思う」
「・・・っ!それじゃあ、あんたは、勝巳にあの女と結婚しろと!」
「ああ、そうだ」
「・・・あんたは、やっぱり、真神のことしか考えてないんだな。義兄さんの愛人の子にここを取られたくないんだろう、しょせん血のつながりはないからな!」

 清乃が生死をさまよいながら産んだ春彦は、生い立ちが大きく影を落として線の細い子に育った。世代交代するころに強力な後ろ盾がいない可能性を考えると、政治家にするにはかわいそうだと誰もが思っている。
 ところが勇仁が気まぐれに触れた銀座の花は野心に満ち、産んだ息子を政治家にするべくありとあらゆる謀略をめぐらせ、いずれは清乃たちを追い出す腹づもりを隠さない。
 気にかかることはいくらでもあるが、今は、まだ。

「真神のこれからは、どうにでもなると思っている」
「え・・・・」

『俺は、とても嬉しかった』
『とても、嬉しかったのです、お父さん』

 勝巳が収穫してきた、無花果の果実。
 あの甘さと舌触りの滑らかさは、きっといつまでも忘れないだろう。
 彼の、心のうちと同じく。

「私は今、勝巳のことを考えている。・・・だが。お前はどうなんだ?憲二」
「はい?」
「お前は、本当に、勝巳のことを考えて、今、ここにいるのか?」
 今の憲二は、まだ、幼いままだ。
 それでは、渡せない。
 勝巳を渡すことは、出来ない。
「そうだと言い切れないなら、私は、この庭をお前に任せることは出来ない」
「・・・なっ・・・!」
 顔色を変えた憲二がいきなり立ち上がると、引きずられた椅子が大きな音を立てた。
 傍の木にいたらしい小鳥たちが驚いたらしく、鋭い声を上げていっせいに飛び立つ。
 木々が揺れ、窓からさしこむ光が交錯した。


「・・・腹が立つ」
 シートに背を預け、窓に向かって呟いた。
 衝動的に駆け込んだ新幹線は意外と空いていて、自分の悪態なんて誰も聞きとがめることはない。
 昼飯くらい食べて行けと、まるで普通の家庭の父親のようなこと平然とを言う真神総一郎に腹が立つ。
 そして、ことが思い通りに進まず、激高した上に逃げるように飛び出してしまった自分の格好悪さにもっと腹が立った。
 途中から、自分が何を言っているのかわからなかった。
 ただ、初夏のしつらえも完璧なサンルームの中で、仁王立ちになって総一郎に不満を洗いざらい吐き出したことは、おぼろげに覚えている。
 正気に戻った時に、興味深そうな目で見上げる総領の顔に深いしわが刻まれ、随分と老けていることに気が付いた。
 あと数年で八十。憎まれっ子なんとやらもいいところだ。
 そもそも、自分が中学生の頃はすでに還暦だったはずで。
「そういや喜寿祝いなんかはどうしたんだ?やるもんだろう、普通」
 秘書たちからそういった連絡を受けた覚えは、まったくない。
 その普通が、どこにもなかったのだと気が付いた時、腹の底で重い何かが蠢いた。
 普通じゃなかったくせに。
 自分たちを、無視し続けたくせに。

『お前は、本当に、勝巳のことを考えて、今、ここにいるのか?』

 勝巳を、勝巳の何が、お前に解る。

 記憶の中よりも、ずっと小さくなった総一郎の身体。
 それにもかかわらず、昔よりなぜか一層輝いている大きな金色の瞳の力に怯んだ。
 せいいっぱい虚勢を張って言い返しながらも、小さな不安が心をむしばむ。

 勝巳って、なんだろう。
 あいつは、何を考えている?

 生まれたその瞬間から傍にいて。
 呼んだらいつでも、やってきて。
 小さいころは、ぽろぽろととりとめのないことをしゃべり続けていたのに。
 いつからか、黙って座っているだけになった。
 それはまるで、年を取ることがゆっくりな犬であるかのように。

「・・・っ!」

 駄目だ。
 今は、それを考えるときじゃない。

「それどころじゃない・・・」

 早く。
 早く、俺がなんとかしないと。

 携帯を取り出して画面にメッセージをたたき込んだ。
【今、どこ?】
 ほどなくして返事がくる。
【やっと連絡が来たと思ったら、いきなりだな・・・。ホテルのクラブラウンジだけど?】
 会って、打ち合わせする時間も惜しかった。
【アオキって男をそちらへ向かわせる。とりあえず、彼の指示通りに動いて】
【いいけど・・・。ちなみに、アオキってイイ男?】
【・・・さあ?】
【君は相変わらずだね、お姫様】
【幸運を、ジュール】
【君も、そして、君の勝巳も】
 画面を閉じて、深いため息をつく。
 とある知人に、ちょっとした遊びを持ち掛けた。
 ドラマのような出会いと展開をセッティングして、運命の恋を演出してみないかと。
 バイセクシャルで、好奇心の塊。
 そして何よりも金髪碧眼の容姿であること、欧州王家の血を引くことが、餌になるだろう。
 たいした労もなく獲物は食いつくはずだ。
「・・・俺は、何をしようとしてるのかな」
 報酬は好きなだけ取らせる。
 船でも、城でも、自分の身体でも。
 企みが成功するならば、これほど安いものはない。

 目を閉じると、広い背中を思い出す。
 無骨さを感じる大きな手、予想に反した繊細な指先。
 ときどき、深い緑の色に染まる瞳。
 そして、静かな声。

『・・・憲』

 憲二とも、兄とも、呼ばせなかった。
 憲二という名前は、前妻の子である兄の俊一を超えるのは許さないという父の呪詛が込められていた。そして、後妻の子である自分たちはまるで拾った犬のような以下の冷遇ぶりで、真神の中に居場所なんてどこにもなかった。
 自分が小さいころに一度、『けん』と呼べと言うと、勝巳は素直に従った。
 まだ歩き方もおぼつかなく、言葉も、言葉の意味も、まだよく解らない幼子だったのに。

 勝巳。
 お前の、望みはなんだ。



「紫陽花か・・・」
 植え込みの中に花弁の鞠を見つけて、つい、その名を口にした。
 桜と同様、紫陽花は開花の時期になると途端にその存在を主張し始める。
 ここに、我ありと。
 そして、夏の盛りに向けて気候がいっきに変わっていくぞと人間に教えてくれる。
「ここは、紫陽花好きが設計したのかな」
 ひと一人が通れるほどの小さな小道沿いに、古来のものから改良種まで彩や形もさまざまな紫陽花が植えられていることに気付く。
 見るからに高級なこの大型マンションのコンセプトは緑との調和だったようで、敷地内で四季のしつらえを楽しめるように様々な植木が施され、おそらく、憲二はそれが気に入ってここに居を構えたのだろう。
 憲二は、花の名前を憶えない。
 だけど、とても愛している。
 彼の所有する財産をもってすれば、都会的なタワーマンションの高層階やホテルのスィートで暮らすのは容易いはずだし、おそらくその方がライフスタイルにもあっている。しかし、緑の多い場所をわざわざ選んだ。
 無意識のうちの選択だろうが、重要なことだ。
 持たされた合鍵でエントランスを通過し玄関に設置された呼び鈴を押したら、しばらく待たされたのち扉がゆっくり開く。
「・・・鍵があるんだから、勝手に入ればいいのに」
 むっつりと、なぜか不満げな声で出迎えられた。
「そういうわけには」
「なんだよ、それは俺に対する当てつけか?」
 いつも憲二は、時間も都合もお構いなしに、気が向いた時に声をかけてくる。
 それは、昔から変わらない。
「おれの家はいいけど、憲のところはね・・・」
 兄には人を惹きつける魅力がある。
 誰もが時間を共にしたいと願うし、興味を持てばたまに応えることがある。
 彼をとりまくすべては、彼だけのものだ。
 誰も邪魔することはできない。
「どういう意味だよ、それ・・・っ」
 苦笑すると、それを見とがめた憲が珍しく突っかかってくる。
「どうした、憲。何かあったか?」
 顔を覗き込んだ瞬間、お互いの視線が強く絡み合い逸らすことができず、ふいに何もかも止まったような錯覚に陥った。
 飴色の瞳が、今日はいつもより黄金に近い。
 強い光に吸い込まれそうになりながら、なけなしの力を振り絞って抗う。
「・・・無花果を持ってきた。昨日、本宅の様子を見に行ってね。温室で育ててたのが、意外とうまくできたようで、けっこう甘いんだこれが」
 まくしたてて顔の前に荷物を掲げてみせると、まるで魔法からとけたかのように憲二も目を瞬いた。
「ああ・・・。そうか」
 ぽつりと言い置くと背を向けて、リビングへと戻っていく。
 どこかぼんやりとした様子でラグの上に座り、ローテーブルに肘をついて考え事をしている兄の邪魔にならないように台所に入り、カウンターで無花果の皮をむいてガラスの器に盛る。
 憲二は昔から面倒くさがりで、果物も皮をむいてやらないと食べようとしない。
 それは、無花果にしても同じこと。
「はい。とりあえず味見してみて」
 一口大に刻んだ一切れをフォークに刺して渡そうとしたら、うわの空の風なのにひな鳥のようにぽかりと口を開いて見せたので、唇の中に入れてみた。
「ん」
 ゆっくりと、咀嚼して、こくりと飲み込んだ。
 そして、また、ぽかりと口を開くので、また一切れ含ませ、咀嚼してまた・・・と、それは器が空になるまで続いた。
 らしくない、と思った。
 研究のことを考えている時も意識が飛んでいることはあるが、これは全く違う。
 そろそろ、何があったか尋ねるべきだろうかと、フォークを器に戻しながら考えていると、少しかすれたような声が聞こえてきた。
「ニューヨークで、松永可南子に会った」
「ああ。元気だった?」
「そりゃあもう、日本にないような真っ青なドレス来て、キラキラしてて・・・」
「うん」
「おなかの子も順調って自慢していた」
「そうか。それは良かった」
「よかったって、お前、この間まで付き合っていたじゃないか」
「う・・・ん。だけど、それは去年のことだし」
 年末に忙しくて会えない間、元同僚で先輩だった松永可南子は急患で運ばれたバレエダンサーと恋に落ち、年が明けたら辞表を出してあっという間に渡米した。
 二年ほど付き合っていたけれど、恋人なのかというと、お互いに疑問の残る関係だったと思う。
『大人』を意識した、静かな関係。
 そうさせたのは、自分だ。
「彼女が幸せなら、これ以上嬉しいことはない」
「じゃあさ、大谷星羅はどうなんだよ」
「・・・え?」
 その名前が出てきたことに驚いた。
「・・・なぜ?」
「なぜって?もうすぐ婚約するのに、俺が知らないほうがどうかしてる」
「いや、まだ本決まりってわけじゃないし・・・」
「松永の耳にはもう届いていたぞ。あの女からご丁寧に教えてもらった俺の立場って、何?,」
「ごめん。でも、彼女が承諾するかはまだ、本当にわからないんだ」
「なんで、その女に決定権があるんだ?おかしいだろう、そんな話」
「うん。そうかもしれない。だけど、俺は真神本家から離籍しているし、ただの勤務医だ。それなのに大谷家の長女を頂くとなると、簡単にはいかないよ」
 勝巳たちの生母である芳恵は、夫の総一郎から長年冷遇されあらゆる意味での暴力を受け続けた。息子の愚行を見かねた姑の桐谷絹が死の直前に芳恵を説得し、母子四人を本家から除籍、真神姓のまま独立戸籍を作らせていた。
「なんで。すごいバカだって聞いたぞ。男癖も悪いし・・・」
「それは、悪い噂ほど広まるのが早いからなあ。彼女は良い子だよ。ただ、ちょっと運がないだけだ」


 だから、それを馬鹿だというんだ。
 言いかけて、憲二はあわてて飲み込んだ。
 頭の中を、露草色のドレスを身にまとった女の声がこだまする。

『手のかかる人ほど放っておけないのは、あの人の悪い癖ね』

 松永可南子は、勝巳を嫌いになったわけでも、飽きたわけでもない。
 恋に落ちたといって大きなおなかを大事そうに抱えながらも、気になるからこそ行く末に神経をとがらせる。思わせぶりなまなざしと言葉の端々に、勝巳への強い想いが垣間見えた。

「お前さあ。本気であれと結婚するつもり?」
 大谷星羅。ゼネコンと密接な関係があるせいで富裕家の一つと数えられる大谷家の長女だが言動はエキセントリックで、色恋沙汰をはじめとしたゴシップで海外にまで知られているらしい。数人いる弟妹達は至って堅実なところを見ると、異色の存在で、大谷家としては厄介ばらいをしたくて嫁ぎ先を探していた。
 そんななか、政財界で巡っていた縁談話が真神勝巳にまでたどり着き、見合いで彼を気に入ったらしい星羅は、もうすでに昼夜を問わずに呼び出して甘え始めていることは、わざわざ調べるまでもなく人の口に上っていた。たまたま、自分の耳に入らなかっただけだ。
「あれって、ひどいな。でも、・・・うん。するよ」
 軽く笑って、それでも勝巳は肯定した。
 契約結婚だろう、それ。
 大谷家の弟妹達の縁談がまとまるまでの仮の関係だって、真神本家の財政を立て直すためだって、言えよ。

『自分しか愛せない女なら、なおさら勝己が欲しくなるでしょうね。真神よりも愛してと泣き叫んだ時、勝己はどうするつもりなのかしら?』

 松永可南子は悪魔のような女だ。
 自分の耳の中に毒を流し込んだ。
 最初は、ほんの少しの世間話。
 それがやがて全身を巡り、自分を訳の分からない感情と衝動を巻き起こさせる。
 彼女は、愛してと叫ばなかった。
 年上として物分かりの良いふりをして、プライドを選んだ。
 だから、綺麗に別れることができた。
 なら、次の女はどうだ。
 混乱のまま、思わぬ言葉が口をついて出た。
「なあ、おまえ。あいつら相手に、どんなセックスをするわけ?」
 かちりと、頭の中で欠けていたピースがはまった。
「松永も、なんか、未練たらたらだったけど、どんなすごいセックスしたらそうなるわけ?」
「・・・憲!」
 こんな、険しい顔の勝巳は、初めて見た。
 なぜか、心地よさがこみあげてくる。
 心地よさ?
 違う。
 これは、快感だ。
「憲・・・。その手の冗談は勘弁してくれ」
 立ち上がろうとする勝巳の膝を握りこんで、制した。
 ほら、また躱そうとする。
 ほんの少し前のことを思い出して、憲二はちろりと舌なめずりした。
「なあ、さっき。俺たち、目があったよな」
 勝巳の目の色が、さっと変わる。
 あの色。
 玄関で、互いに目が離せなくなった時。
「あの感覚ってさあ・・・」
 息のかかる距離まで顔を寄せ、低く、囁いた。
「ヤりたい時だよな」
 
『・・・罪な人』

 やめろと、止める声が、遠くに聞こえる。
 いろいろな声とか言葉とか理性とか。
 そんなものなんか、もう、どうでもいい。
 とにかく、欲しくなってしまった。
「やろうよ、勝巳」
 驚愕に固まっている勝巳の肩を掴んで押し倒し、無理やり唇を合わせた。
 柔らかくて、温かい。
「やめ・・・」
 口を開いた隙に、舌を突っ込んだ。
 優しい勝巳。
 どんなに抵抗しようとも払いのけることも、ましてや舌を噛み切るなんてできる筈がないことは、解かっていた。
 だから、存分に口内を味わう。
 そして、仰向けのままの勝巳の上で体をくねらせ、合わせた胸と胸、腰と腰、太ももと太ももを魚の交尾のように擦り付けた。
 シャツを下から引き抜いて、手の平をくぐらせると、弾力のある筋肉が指先を押し返す。
 手のひらが、指先が、固い腹にぴたりと吸い付くようだ。
「やめておけ。とりかえしがつかなくなるぞ」
 もう既に、身体の奥に火がついていることは、勝巳の固くなった下肢が教えてくれている。
 それなのに、冷静な声色に腹が立った。
「こんなになってるくせに、何をいまさら」
 馬乗りの状態で身を起こし、尻をゆすって熱い杭に刺激を加え、自分のシャツのボタンを一つずつ外して見せながら、笑い飛ばした。
「俺、今すごくやりたい。やらせて?勝巳」
 何て言い草だと、思った。
 でも、それ以外、言うことはない。
「ねえ、やろうよ・・・」
 左手で自分の裸の胸を撫でまわし、右手でジーンズの前を寛げ、形を変えた分身を取り出し、自らの指先で頂をつまんでため息をついた。
 気持ちいい。
 勝巳の視線が、見てる。
 指先を、胸を、反りあがった性器を、あますことなく見ている。
 情欲に濡れた目で。
「やりたい」
 唇が、震える。
「・・・本当・・・に、知らないからな」
 勝巳の、声が、違う。
 なに、その声。
 甘い。
 そう思ったのは、本当に一瞬で。
 気が付いたら身体を抱え込まれ、天地が逆転した。
「あ・・・」
 鼻と鼻がぶつかる距離に勝巳の顔があって。
 息が、熱い。
 緑の目が、暗くて。
 まるで、渓谷の深い水底のような色をしていて。
 でも、強くて。
「・・・憲」
 唇が、唇を合わせられて肩に電流のものが走った。
 なに、これ。
 さっきと違う。
 唇が触れただけなのに、首筋から背中に汗がどっと噴き出す。
「ん・・・っ」
 熱い。
 唇だけじゃなくて、みんな熱い。
 両手で勝巳の頬を包み込み、舌と舌をすり合わせてすすりあい、奥の奥をむさぼりあった。
「けん・・・」
 はっはっはっと、全速力で走ってきた犬のような荒い吐息が聞こえて、それが憲二と、自分のものだと気が付くのに随分時間がかかった。
「かつ・・・み」
 毛足の長いラグの上で、自分は汗だらけの裸をくねらせるばかりで、焦れていた。
 わからないけど、すごく気持ちいい。
 でも、もっと気持ちよくなりたい。
「脱いで・・・」
 懇願すると、身を起こした勝巳はむしりとるようにしてシャツを脱ぐ。
 現れた胸板はすでに汗でしっとりと濡れていて、とても、とてもおいしそうに見え、唾をのんだ。
 腰を上げてスラックスと下着を引き抜くと、勢いよく立ち上がったものとしっかりと筋肉の張りつめた下半身があらわになって、期待に、胸が熱くなった。
「はやく、ねえ・・・」
 自らの太ももに両手をかけて広げた。
 早く、早く。
 獣のような唸りを喉の奥で鳴らしながら、勝巳が憲二の下肢に顔を伏せる。
 軽く、内股に唇をはわせて熱い息を吹き込まれ、ちらりと舌先でなめられただけで、イきそうになった。
 それから先は、もう、わからない。
 頭のてっぺんからつま先まで、熱い息にさらされて、蕩かされた。
 でも、足りない。
 もっと、もっと。
「ねえ、まだ・・・?」
 焦れて、ねだって、背中をそらす。
 受け入れる穴は憲の指だけでは待てなくて、自分から突っ込んでほぐした。すっかり柔らかくなったそこは強い力を欲しがっている。
「ねえ・・・」
 両足のかかとを強靭そうな腰に巻き付けて、先を促す。
「・・・わかった。わかったから、けん・・・」
 根負けしたような呟きを落としたくせに、強い力で両膝を大きく開かされ、身体の真ん中に、勝巳がずぶずぶと、容赦なく入ってきた。
「あーっ・・・」
 悲鳴を上げたはずの自分の喉は、もう掠れていて、ほとんど機能していない。
 熱い、強い棒に貫かれて、気持ちいい気持ちいいと、身体中が啼いている。
「いい、いい、いい・・・っ」
 息と一緒にさえずり続けた。

 こんなの、知らない。
 こんな、気持ちいいなんて、知らなかった。

 がくがくと揺さぶられながら、背中に爪を立ててしがみ付きながら、泣きわめき続ける。

 知らない。
 かつみ。
 もっと。
 いや。
 やめないで。
 ・・・イくっ。

 何度絶頂を迎えても足りなくて、上になって、下になって、抱え上げられてドロドロになって、生きている、と、初めて思った。
 そして、身体の奥を貫かれて、これだと、思った。
 ずっと、ずっと、欲しかった。
 俺のもの。
 俺だけのもの。
 離したくなくて、両足で締め上げて、絶叫した。
「ここにいて」
 やっと、手に入れた。
 やっと・・・。
 嬉しさに、涙があとからあとから流れて、止まらなかった。

「かつみ」
 呼んだら、両手の指を深く、絡めてくれた。
 指先から、手のひらから甘いものがしみ込んでいく。

 物凄く、嬉しい。

 勝巳の、太くて爪の短い指先に、唇を寄せた。



「憲、いい加減起きないと遅刻するぞ」
 はっと、息をのんで目を開いた。
 ベッドのそばには、スーツ姿の勝巳。
「一応、朝ご飯はテーブルの上にセットしたけど、無理だったら冷蔵庫に入れて」
「え・・・?」
 いつもの、勝巳。
 いつもの、弟。
「勝巳・・・?」
 窓から差し込む朝日は、いつものように清らかな光を放っていて。
 自分は、いつもの寝巻を着て、ベッドの中にいた。
「悪いけど、先に行く。今日は外来があるから」
 心底、すまないという顔をしたけれど、それはいつもと変わらない。
「うん・・・」
「じゃあ」
 だけど。
 足早に去っていく勝巳の背中は、急に知らないものになっていて、まるで別人に見えた。
「ま・・・っ」
 行かないで、と言いかけて、口をつぐんだ。
 勝巳のいない部屋。
 ふいに光が消えて、寒々しく感じた。
「さむ・・・」
 つきりと、胸の奥が痛んだ。
 寝巻の前を開いてみると、ふろ上がりのようにさらりとした肌の上に赤くうっ血したあとが散らばっている。
 これは昨夜、勝巳が…。
「ちがう・・・」
 身体が、震えた。
「間違えた・・・」
 ようやく、わかった。

 自分は、間違えてしまった。
 こんなはずじゃなかった。
 
 手に入れたのではない。
 なにもかも、ぶち壊しにしてしまった。

「かつみ・・・」

 でも、離せない。
 でも、欲しい。

「どうしよう、かつみ・・・」

 どうしたら。

 白いシーツを握りしめて、途方に暮れた。
 勝巳を、勝巳のやさしさを自分は踏みにじってしまった。
 勢いに任せて、考えなしに。
「なんてことを・・・」
 目の奥が熱くなって。
 頬をどんどん涙が伝う。
 泣いてい良いはずないのに、涙が勝手に流れて止まらない。

「ごめん、かつみ」

 でも、欲しい。

 唇の中に、無花果の、甘い香りを思い出す。
 甘い、唇。
 忘れられない、あの、瞬間。

 ごめん。
 でも、欲しい。




 -完-


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