『かつげき!まんばぐみ-2-』
『足利宝剣、源氏の重宝、天下五剣… いずれも名だたる名刀ばかりか…なのに、俺は…』
彼は、俯いて古ぼけた覆いで顔を隠し、穴があったら入りたいと言わんばかりに、低くうめいた。
「そもそも、六十五体も名刀を集めたなかで、わざわざ選ばれちゃった六振りだろう?そっちのほうが俺気になるわー」
今回の任務は本丸の中でも注目の的だった。
留守番のソハヤノツルキは、城内の空気を肌で感じていた。
「そうなんだ。俺なんか、思いっきりあの中で浮いていて・・・」
大典太は大きな身体から深い深いため息を吐き出した。
選ばれし男としての誇りなんてものは、かけらも感じられない。
「どこらへんが?」
「みんな、キラキラした感じで・・・。場違いなんだよ、俺」
宝刀・三日月宗近、髭切・膝丸の源氏兄弟、足利義輝の秘蔵っ子だった骨喰藤四郎、そして山姥切国広。
刀の美しさも言うまでもないが、付喪神としての彼らの美麗ぶりは、大典太にとって眩しすぎた。
「そっちか」
「マーガレットとか、りぼんとかの中に、マガジンとかジャンプなヤツが突っ込まれたような・・・」
綺羅綺羅しい世界。
「ああ、乙女ゲーの中に、いきなりガチな格闘ゲーが間違って入れちゃいました的な・・・」
彼らなら、白いフリルのブラウスだって似合うだろう。
なぜならば。
「瞳が大きくて、睫毛が長くて。・・・二重でっ・・・」
「・・・ああ。あんた一重だもんな、大典太。いや、奥二重だっけ?」
「どっちにしろ、なんか違うんだよ、俺」
切れ長と言えばカッコイイが、それはキレッキレのナイフのように鋭く、少年の頃は学校の窓ガラスを割りまくり、盗んだバイクで走りだしただろうと、昭和の街を歩いたら時代の人に言われたことがある。
「ああ・・・。」
あのメンツならイギリスの全寮制男子校と薔薇の花を連想できるが、大典太は格闘に次ぐ格闘、もしくはロックバンドでギターをステージに打ち付けている姿しか思い浮かばない。
それを言ったら傷に塩を塗るようなものだと思い、ソハヤノツルキは口を閉じていたが、根っこが同じだと考えていることが言わずと伝わってしまうものなのか…。
「・・・そうなんだ。彼らはウィーンフィル。俺にはヘビメタがお似合いさ・・・」
「いや、そこまでは」
言っていないつもりである。
「でもさ。隊長に選ばれたのに、それでも気にするんだ、山姥切」
ソハヤノツルキは思い切って話の転換を試みた。
「長義の写しであることが、やはり気になるようでな」
「ああ・・・。わかるなあ。俺も坂上宝剣を写したんだって言われても、気になるもんは気になるし」
「・・・そういえば、そうだな。お前もよく言っているな、写しだなんだって」
「だなんだって・・・。お前な」
「いい加減聞きなれていたからかな。お前が写しだなんだいってもさして気にならないんだが・・・」
何気にひどい、こいつ。
いや、それは今更なんだが。
「なら、山姥切のは気になるわけ?」
「ああ。山姥切が写しだなんだと言い始めると・・・」
「言い始めると?」
「胸が痛くて、股間が熱くなってくる」
すぱーんと、大典太は言ってのけ、それはソハヤノツルキの頭の中を暴風のように一瞬にして駆け抜けた。
「・・・・はい?」
俺の耳がおかしくなったのか、それとも。
いっそのこと白昼夢であってほしいと願いつつ聞き返す。
「お前が写しだなんだって言っても、俺の股間は涼しいまんまなんだが」
大典太の目は本気だった。
大まじめだった。
「いやいやいや、熱くされても困るよ、兄弟?」
そろりそろりと、尻で後ろにむかっていざる。
大柄な男二人だからと、十畳ちょっとの広めの部屋を割り当てられていたが、まだまだ狭い。酸素が足りないと今は切実に思う。
前からちょっと頭の中がアレだなーと思っていたが、この宝剣。
お蔵入りが長すぎて、凡人には理解できない言葉を吐く。
「大丈夫だ。お前を見てもなんも感じん」
「感じるな。考えるな。一生」
滂沱の汗を流し続ける相棒のことは全く目に映らないらしく、虚空を見つめて大典太はため息をついた。
「山姥切・・・」
かわいかったんだ、すごく。
可愛くて可愛くて、胸が熱くて、喉から心臓が出るかと思った。
暴走気味の胸ドキを鎮めるには、今度の敵の数は最高にちょうど良かった。
本当は、もっと戦っていいくらいだった。
せっかくの発散の場を、三日月に全部持っていかれた時には茫然としたものだ。
「ああ、可愛い」
大典太光世はひたすら胸のうちで任務中の山姥切を反芻した。
大太刀を一撃で捌いた山姥切。
しょんぼりしょげる山姥切。
カッコよく隊長として指揮する山姥切。
みんなにご飯を作ってくれる山姥切。
こんのすけを肩に乗っけて走るラブリー山姥切。
風のように走って切りまくる山姥切。
最後に仮面野郎を倒した山姥切・・・。
こ、こんどいっしょにいけたら、まんばちゃんって、呼んでもいいかな・・・?
にへらと、大典太は知らぬうちに笑みをこぼした。
大典太は敵を素手で倒せる、野獣とも言われた男のはずだった。
だが今、彼の顔面は、あきらかに崩壊している。
「う・・・」
我慢の限界に達したソハヤノツルキはそそくさと部屋から飛び出した。
夢見る乙女の風体になっている大男は、そっと独りにしておくに限る。
「どっかの部屋に入れてもらえねえかな・・・」
身の危険はまったく感じないが、あまりにも鬱陶しすぎる。
恋という病がいかに難儀か思い知った、戦闘明けの午後だった。
-完-